タイツを履き忘れてすみませんでした




木曜日


中学のとき、一回だけ反省文を書いたことがあるのだが、それが「ミサにタイツを履き忘れてすみませんでした」という内容だった。反省文を書かせるハードルが低すぎた学校だったせいで、めっちゃダサい理由。しかも「反省文になっていない」と言われ「反省文になっていない反省文を書いてしまいすみませんでした」という反省文を書いた。



もうそんなのとは無縁だと思っていたのに、大学に書類を提出し忘れて人事課に反省文を書く。大人なのに。出張の新幹線の切符をクレジットカードで買ったということを示すための明細を提出しそびれていたのだ。業務多忙のため失念しましたって書いたら、みんな忙しいのは同じです、理由になっていませんって怒られた。恥ずかしい。大人なのにもう一回反省文書いた。


どうせなら、もっと大いなることで反省したい。



水曜日


歩くのも話すのも食べるのも、色々とゆっくりめだという一緒に仕事しているデザイナーさんが「一秒という概念についていけない」と言っていて笑った。


町田康の『しらふで生きる』とケイト・マンの『ひれふせ、女たち』を読む。




金曜日


むかし、論文を発表したとき、ある先生に「教育者永井ならいい。でも哲学者永井玲衣としてはどうなの?」って質問された。めっちゃおしゃれだなとその時思ったけど、今思えば何だよその質問。


濱野ちひろの『聖なるズ―』と藤岡拓太郎の『たぷの里』を読む。




日曜日


ジョギングをしよう、とふと思いつく。外に飛び出し、開始3分で足首が痛くなる。ふつうの服に、ふつうの靴で走っているからだ。ただの急いでいる人。


「ジョギング はじめて」とググり、ストレッチの存在を知る。運動をしたことがないので、ストレッチという概念がなかった。


岸政彦『マンゴーと手榴弾』を何度も読んで何度も感動する。




火曜日


電車の中で、駄々をこねる子どもにたいして母親が「ママはだいぶ優しい方だと思うよ、ママのランキングがあったとしたら」と言っていた。


ママという存在を相対化している。高度な技。


自分の修士論文を読み直した。註が300ある。読みづらくて迷惑。小腹がすいたので天かすを食べた。胃が気持ち悪くなって後悔する。


現代思想を読み、すゑひろがりずの動画を見る。




土曜日


Quick Japan Webで新しい記事が出る。



この現状で何を書けばいいかわからず連載もストップしていたが、これは何とか書けた。ちなみにプロフィール写真は、数年前に伶奈が何気なく撮ったもの。猫のぬいぐるみを持っているのだが、多くの人に宇宙人だと思われている。宇宙人のぬいぐるみとか怖すぎ。



去年の夏、ある学校で生徒たちに「ペスト」について教えた。疫病による社会不安。当時の不安を象徴する絵画。当時のひとびとは死を意識しました。これだけの数の人々が亡くなりました。


生徒はへえ、と言った。わたしも教えながら、へえ、と思った。


数十年後の学生も、教科書の死亡者数、感染者数に線を引きながら、へえ、と息をもらすのだろうか。この今の状況が、過去になることがあるのだろうか。




月曜日


毎日の度重なるテレワークで自分の顔を一生分見た。左右の目の大きさが全然違うことにはじめて気がつく。あと、毎日死ぬほどメールしてる。岸政彦さんが「俺はメールを書くために生まれてきたんじゃねえ」ってツイートしてたんだが、気持ちが分かる。渋谷の女子高生よりメールしてる。お世話になっておりますって一生分書いた。


配信授業のため、自分でカメラをセットしひとり録画する。面白い記事や動画をその場で共有できるから、普段の授業よりリアペの反応がいい気がする。でもたったひとりで喋り続けるので、頭がおかしくなる。見返してみたら、妙にハイテンションなのに目が死んでいた。死後評価されたら、この動画をドキュメンタリーで流されてしまう。


斉藤倫『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』を読む。




水曜日


外出自粛期間、昔のことばかり思い出す。



このツイートをしたら、複数人から個別に「どういう意味?」ってLINEが来た。どういう意味?と言われる人生だった。


中2の美術室で、隣のグループがずっと恋愛話をしており、黙ってじっとしていたら、別の友だちに「何の話してるの?」と聞かれ「さかなの話」と答えてしまったのを思い出す。そのあと、友だちにずっと「さかなの話ってなに?」「どういうこと?」「なんで?」と詰められた。哲学科でもあんなに問い詰められたことない。



あと高校のとき受けた模試で、わりと自信ありながら結果をひらいたら「判定不可N」だったことがあった。文系なのに、まちがって理系国立の模試受けてたっぽい。Nって。せめてミステイクの「M」にしてほしい。「人間失格」のNなのか。



ブルボン小林と、アリストテレスを読む。




木曜日



いちごジャムとして焼鮭が売られている。





夜に幼馴染5人でzoomをした。ほとんどの時間がなぞなぞに費やされた。別れ際にも「永井、次までになぞなぞストックしておいて」と言われる。小学生の約束か。


こういう時間が、今のわたしたちに本当に必要だ。




金曜日


ある研究者の論文を読み、胸が苦しくなるほど好きになってしまう。この論文のおかげで日々の研究が華やぎ、人生が美しくなった。この論文のことしか考えられなくなる。恋。大好きですというメールを送りたくなるのを懸命にこらえる。同年代っぽいし、二人きりで研究会したい。気持ちが抑えきれず、今井と伶奈に相談した。


「みをほろぼさないように」と今井に言われる。金言だ。伶奈には既読スルーされている。


ちなみに今井は食糧が尽きて、朝ごはんが焼きエイヒレになったらしい。


岡野八代『フェミニズムの政治学』と落語の本を読む。